壁に二つの影が映っている
かべ に ふたつ の かげ が うつって いる
Kabe ni Futatsu no Kage ga Utsutte iru
子と母の二つの影が映っている
こ と はは の ふたつ の かげ が うつって いる
Ko to Haha no Futatsu no Kage ga Utsutte iru
二人は自転車をこいで 今、家へ帰るところ
ふたり は じてんしゃ をこいで いま 、 いえ へ かえる ところ
Futari ha Jitensha wokoide Ima 、 Ie he Kaeru tokoro
子は母に話しながら 母は子にうなずきながら
こ は はは に はなし ながら はは は こ にうなずきながら
Ko ha Haha ni Hanashi nagara Haha ha Ko niunazukinagara
子に父はいなく 母に夫はいない
こ に ちち はいなく はは に おっと はいない
Ko ni Chichi hainaku Haha ni Otto hainai
父も夫もいない夜道を
ちち も おっと もいない よみち を
Chichi mo Otto moinai Yomichi wo
二人はゴムまりのようにはずんでいく
ふたり は ごむ まりのようにはずんでいく
Futari ha gomu marinoyounihazundeiku
ぼくには愛が二つの
ぼくには あい が ふたつ の
bokuniha Ai ga Futatsu no
ゴムまりになったように見える
ごむ まりになったように みえ る
gomu marininattayouni Mie ru
父のいない子は 愛について考えつづける
ちち のいない こ は あい について かんがえ つづける
Chichi noinai Ko ha Ai nitsuite Kangae tsuzukeru
夫のいない母も 愛について考えつづける
おっと のいない はは も あい について かんがえ つづける
Otto noinai Haha mo Ai nitsuite Kangae tsuzukeru
愛について考えることで 二人は結ばれている
あい について かんがえ ることで ふたり は むすば れている
Ai nitsuite Kangae rukotode Futari ha Musuba reteiru
道ばたである日
みち ばたである にち
Michi batadearu Nichi
星のように遠いはずの男とすれ違う
ほし のように とおい はずの おとこ とすれ ちがう
Hoshi noyouni Tooi hazuno Otoko tosure Chigau
愛のことを考えながら
あい のことを かんがえ ながら
Ai nokotowo Kangae nagara
子と母と、男は道端ですれ違う
こ と はは と 、 おとこ は みちばた ですれ ちがう
Ko to Haha to 、 Otoko ha Michibata desure Chigau
星のように遠い場所から
ほし のように とおい ばしょ から
Hoshi noyouni Tooi Basho kara
その夜、男は子と母に電話をかける
その よる 、 おとこ は こ と はは に でんわ をかける
sono Yoru 、 Otoko ha Ko to Haha ni Denwa wokakeru
愛のことを考えながら 子と母は生きていく
あい のことを かんがえ ながら こ と はは は いき ていく
Ai nokotowo Kangae nagara Ko to Haha ha Iki teiku
愛のことを考えながら 男もまた生きていく
あい のことを かんがえ ながら おとこ もまた いき ていく
Ai nokotowo Kangae nagara Otoko momata Iki teiku
遠く離れた場所にいて
とおく はなれ た ばしょ にいて
Tooku Hanare ta Basho niite
どちらも愛について考えている
どちらも あい について かんがえ ている
dochiramo Ai nitsuite Kangae teiru
つかまえた、と壁に映った子の影が言う
つかまえた 、 と かべ に うつった こ の かげ が いう
tsukamaeta 、 to Kabe ni Utsutta Ko no Kage ga Iu
つかまえた、と壁に映った母の影が言う
つかまえた 、 と かべ に うつった はは の かげ が いう
tsukamaeta 、 to Kabe ni Utsutta Haha no Kage ga Iu
子と母は自転車をこいで 家へ帰って行く
こ と はは は じてんしゃ をこいで いえ へ かえって いく
Ko to Haha ha Jitensha wokoide Ie he Kaette Iku
つかまえた、とつぶやく二つの影を
つかまえた 、 とつぶやく ふたつ の かげ を
tsukamaeta 、 totsubuyaku Futatsu no Kage wo
道ばたの壁の上に残して
みち ばたの かべ の うえに のこし て
Michi batano Kabe no Ueni Nokoshi te