幽かな記憶の 糸を手繰るように
かすか な きおく の いと を たぐる ように
Kasuka na Kioku no Ito wo Taguru youni
仄昏い森へ 足を踏み入れた
そく くらい もり へ あし を ふみ いれ た
Soku Kurai Mori he Ashi wo Fumi Ire ta
幼い記憶の 途を辿るように
おさない きおく の と を たどる ように
Osanai Kioku no To wo Tadoru youni
入り組んだ森の 奥へと進んだ
いり くん だ もり の おく へと すすん だ
Iri Kun da Mori no Oku heto Susun da
物心ついた時には、既に父の消息は不明で、
ものごころ ついた ときに は 、 すでに ちち の しょうそく は ふめい で 、
Monogokoro tsuita Tokini ha 、 Sudeni Chichi no Shousoku ha Fumei de 、
私と母は何時も二人、とても貧しい暮らしだった。
わたし と はは は なんじ も ふたり 、 とても まずしい くらし だった 。
Watashi to Haha ha Nanji mo Futari 、 totemo Mazushii Kurashi datta 。
井戸に毒を入れた等と、謂われなき罪で虐げられる事も多く、
いど に どく を いれ た など と 、 いわ れなき つみ で しいたげ られる こと も おおく 、
Ido ni Doku wo Ire ta Nado to 、 Iwa renaki Tsumi de Shiitage rareru Koto mo Ooku 、
私にとって友達と言えるのは、森の動物達だけだった……。
わたし にとって ともだち と いえ るのは 、 もり の どうぶつたち だけだった ……。
Watashi nitotte Tomodachi to Ie runoha 、 Mori no Doubutsutachi dakedatta ……。
それでも 嗚呼 ねぇ 母さん 私は幸せだったよ
それでも ああ ねぇ かあさん わたし は しあわせ だったよ
soredemo Aa nee Kaasan Watashi ha Shiawase dattayo
その理由を ねぇ 知ってた? 貴女が一緒だったから
その りゆう を ねぇ しって た ? あなた が いっしょ だったから
sono Riyuu wo nee Shitte ta ? Anata ga Issho dattakara
それなのに 何故 母は 私を捨てたのか?
それなのに なぜ はは は わたし を すて たのか ?
sorenanoni Naze Haha ha Watashi wo Sute tanoka ?
どうしても それが 知りたくて……
どうしても それが しり たくて ……
doushitemo sorega Shiri takute ……
小さな私を拾ってくれたのは 大きな街にある修道院だった
ちいさ な わたし を ひろって くれたのは おおき な まち にある しゅうどういん だった
Chiisa na Watashi wo Hirotte kuretanoha Ooki na Machi niaru Shuudouin datta
けれど 激しく吹き荒れた改革の嵐と
けれど はげしく ふき あれ た かいかく の あらし と
keredo Hageshiku Fuki Are ta Kaikaku no Arashi to
新教徒達の手によって 嗚呼 無惨にも破壊された
しん きょうと たち の てに よって ああ むざん にも はかい された
Shin Kyouto Tachi no Teni yotte Aa Muzan nimo Hakai sareta
人生は数奇なもの 運命は判らないから
じんせい は すうき なもの うんめい は わから ないから
Jinsei ha Suuki namono Unmei ha Wakara naikara
ひとつの終わりは 新しい始まりと信じて 勇気を持って
ひとつの おわり は あたらし い はじまり と しんじ て ゆうき を もって
hitotsuno Owari ha Atarashi i Hajimari to Shinji te Yuuki wo Motte
積年の疑問を 解く為に 故郷を探す 旅を始めた
せきねん の ぎもん を とく ために こきょう を さがす たび を はじめ た
Sekinen no Gimon wo Toku Tameni Kokyou wo Sagasu Tabi wo Hajime ta
私の来訪を待っていたのは、石のように年を取った老婆で、
わたし の らいほう を まって いたのは 、 いし のように ねん を とった ろうば で 、
Watashi no Raihou wo Matte itanoha 、 Ishi noyouni Nen wo Totta Rouba de 、
まるで見知らぬその女性が、母であるとは俄には信じ難く、
まるで みしら ぬその じょせい が 、 はは であるとは が には しんじ がたく 、
marude Mishira nusono Josei ga 、 Haha dearutoha Ga niha Shinji Gataku 、
娘であると気付く事もなく、唯、食料を貪る母の瞳は、
むすめ であると きづく こと もなく 、 ただ 、 しょくりょう を むさぼる はは の ひとみ は 、
Musume dearuto Kizuku Koto monaku 、 Tada 、 Shokuryou wo Musaboru Haha no Hitomi ha 、
既に正気を失っているように思えた。
すでに しょうき を うって いるように おもえ た 。
Sudeni Shouki wo Utte iruyouni Omoe ta 。
そして……。
そして ……。
soshite ……。
改宗したけれど時は既に遅く、
かいしゅう したけれど とき は すでに おそく 、
Kaishuu shitakeredo Toki ha Sudeni Osoku 、
一人の食い扶持さえもう侭ならなかった。
ひとり の くい ふち さえもう まま ならなかった 。
Hitori no Kui Fuchi saemou Mama naranakatta 。
懺悔を嗤う逆十字。
ざんげ を し う ぎゃくじゅうじ 。
Zange wo Shi u Gyakujuuji 。
祈りは届かない。
いのり は とどか ない 。
Inori ha Todoka nai 。
赦しも得られぬまま、罪だけが増えてゆく……。
ゆるし も えら れぬまま 、 つみ だけが ふえ てゆく ……。
Yurushi mo Era renumama 、 Tsumi dakega Fue teyuku ……。
森に置き去りにされた 可哀想な兄妹
もり に おきざり にされた かわいそう な きょうだい
Mori ni Okizari nisareta Kawaisou na Kyoudai
捨てられた子の 悲しい気持ちは 痛いほど解るわ
すて られた こ の かなし い きもち は いたい ほど わかる わ
Sute rareta Ko no Kanashi i Kimochi ha Itai hodo Wakaru wa
鳥達を操り パン屑の道標を消し
とりたち を あやつり ぱん くず の どうひょう を けし
Toritachi wo Ayatsuri pan Kuzu no Douhyou wo Keshi
真雪のように 真っ白な鳥に 歌わせて誘った
まこと ゆき のように まっしろ な とり に うたわ せて さそった
Makoto Yuki noyouni Masshiro na Tori ni Utawa sete Sasotta
見て、【Hansel】お兄ちゃん。ほら、あそこに家があるわ!
みて 、【 Hansel 】 お にいちゃん 。 ほら 、 あそこに いえ があるわ !
Mite 、【 Hansel 】 o Niichan 。 hora 、 asokoni Ie gaaruwa !
でも、【Gretel】それは、怖い魔女の家かも知れない……けど
でも 、【 Gretel 】 それは 、 こわい まじょ の いえ かも しれ ない …… けど
demo 、【 Gretel 】 soreha 、 Kowai Majo no Ie kamo Shire nai …… kedo
けど?
けど ?
kedo ?
腹ぺこで……死ぬよりましさ! 死ぬよりましね!
はら ぺこで …… しぬ よりましさ ! しぬ よりましね !
Hara pekode …… Shinu yorimashisa ! Shinu yorimashine !
屋根は焼き菓子。窓は白砂糖。
やね は やき かし 。 まど は しろざとう 。
Yane ha Yaki Kashi 。 Mado ha Shirozatou 。
お菓子の美味しい家を、栫えてあげようかねぇ!
お かし の おいしい いえ を 、 せん えてあげようかねぇ !
o Kashi no Oishii Ie wo 、 Sen eteageyoukanee !
嗚呼 遠慮は要らないよ
ああ えんりょ は いら ないよ
Aa Enryo ha Ira naiyo
子供に腹一杯食べさせるのが 私のささやかな夢だった
こども に はらいっぱい たべ させるのが わたし のささやかな ゆめ だった
Kodomo ni Haraippai Tabe saserunoga Watashi nosasayakana Yume datta
嗚呼 金貸しだった夫は 生きては帰らなかったけど
ああ かねかし しだった おっと は いき ては かえら なかったけど
Aa Kanekashi shidatta Otto ha Iki teha Kaera nakattakedo
幾許かの遺産を託けてくれていた……
いくばく かの いさん を かこつけ てくれていた ……
Ikubaku kano Isan wo Kakotsuke tekureteita ……
老婆の好意に 無償の行為に 甘えた兄妹は 食べ続けた
ろうば の こうい に むしょう の こうい に あまえ た きょうだい は たべ つづけ た
Rouba no Koui ni Mushou no Koui ni Amae ta Kyoudai ha Tabe Tsuzuke ta
少女はある日 丸々太った 少年を見て 怖くなった
しょうじょ はある にち まるまる ふとった しょうねん を みて こわく なった
Shoujo haaru Nichi Marumaru Futotta Shounen wo Mite Kowaku natta
「嗚呼、老婆は魔女で、二人を食べちゃう心算なんだわ!」
「 ああ 、 ろうば は まじょ で 、 ふたり を たべち ゃう こころ さん なんだわ ! 」
「 Aa 、 Rouba ha Majo de 、 Futari wo Tabechi yau Kokoro San nandawa ! 」
殺られる前に 殺らなきゃ ヤ・バ・イ!
さつ られる まえ に さつ らなきゃ や ・ ば ・ い !
Satsu rareru Mae ni Satsu ranakya ya ・ ba ・ i !
背中を ドン! と 蹴飛ばせ!
せなか を どん ! と けりとば せ !
Senaka wo don ! to Keritoba se !