微睡みの森に踊る 百の孤独と
び すい みの もり に おどる ひゃく の こどく と
Bi Sui mino Mori ni Odoru Hyaku no Kodoku to
月影に蝶は朽ちて 死の夢を見る
つきかげ に ちょう は くち て しの ゆめ を みる
Tsukikage ni Chou ha Kuchi te Shino Yume wo Miru
【七の罪科】
【 しち の ざいか 】
【 Shichi no Zaika 】
野ばらに抱かれて 眠る理由は――
の ばらに だか れて ねむる りゆう は ――
No barani Daka rete Nemuru Riyuu ha ――
水浴びて妃が聴いたのは 身籠り告げし 蛙の声
みずあび て きさき が きい たのは み こもり つげ し かえる の こえ
Mizuabi te Kisaki ga Kii tanoha Mi Komori Tsuge shi Kaeru no Koe
お望みの御子が、一年経たずに、お生まれになるでしょう
お のぞみ の みこ が 、 いちねん へた ずに 、 お うまれ になるでしょう
o Nozomi no Miko ga 、 Ichinen Heta zuni 、 o Umare ninarudeshou
歓びて王が催したのは 姫の誕生 祝う宴
かん びて おう が もよおし たのは ひめ の たんじょう いわう うたげ
Kan bite Ou ga Moyooshi tanoha Hime no Tanjou Iwau Utage
黄金の皿が 一枚足りずに 事件は起こってしまった……
おうごん の さら が いちまい たり ずに じけん は おこ ってしまった ……
Ougon no Sara ga Ichimai Tari zuni Jiken ha Oko tteshimatta ……
【七の罪科】
【 しち の ざいか 】
【 Shichi no Zaika 】
恋も知らずに 死せる処女が
こい も しらず に しせ る しょじょ が
Koi mo Shirazu ni Shise ru Shojo ga
野ばらに抱かれて 眠る理由は――
の ばらに だか れて ねむる りゆう は ――
No barani Daka rete Nemuru Riyuu ha ――
国中に散らばる、神通力を持つ賢女達を全て、招いておきながら…
くにじゅう に ちら ばる 、 じんつうりき を もつ さとし おんなたち を すべて 、 まねい ておきながら …
Kunijuu ni Chira baru 、 Jintsuuriki wo Motsu Satoshi Onnatachi wo Subete 、 Manei teokinagara …
私だけ招かぬ傲慢なる王よ。祝いの宴席に呪いを添えてやろう!
わたし だけ まねか ぬ ごうまん なる おう よ 。 いわい の えんせき に のろい を そえ てやろう !
Watashi dake Maneka nu Gouman naru Ou yo 。 Iwai no Enseki ni Noroi wo Soe teyarou !
姫が抱く運命。僅か余命十五年。
ひめ が だく うんめい 。 わずか よめい じゅうご ねん 。
Hime ga Daku Unmei 。 Wazuka Yomei Juugo Nen 。
紡錘にさされて、床に倒れて、死ぬがいい!
ぼうすい にさされて 、 とこ に たおれ て 、 しぬ がいい !
Bousui nisasarete 、 Toko ni Taore te 、 Shinu gaii !
「いいえー」
「 いいえー 」
「 iie 」
《十三人目の賢女》よ。不吉な言の葉、退けよう。
《 じゅうさん ひとめ の さとし おんな 》 よ 。 ふきつ な ことのは 、 しりぞけ よう 。
《 Juusan Hitome no Satoshi Onna 》 yo 。 Fukitsu na Kotonoha 、 Shirizoke you 。
百年。死んだと見せて、寝台の上、唯、眠るだけ!
ひゃくねん 。 しん だと みせ て 、 しんだい の うえ 、 ただ 、 ねむる だけ !
Hyakunen 。 Shin dato Mise te 、 Shindai no Ue 、 Tada 、 Nemuru dake !
ならば、どちらの力が、上回っているか、嗚呼、流る時のみぞ識る……
ならば 、 どちらの ちから が 、 うわまわって いるか 、 ああ 、 ながる ときの みぞ しき る ……
naraba 、 dochirano Chikara ga 、 Uwamawatte iruka 、 Aa 、 Nagaru Tokino mizo Shiki ru ……
朝と夜は繰り返す。
あさ と よる は くりかえす 。
Asa to Yoru ha Kurikaesu 。
望もうとも、望まざろうとも。
のぞも うとも 、 のぞま ざろうとも 。
Nozomo utomo 、 Nozoma zaroutomo 。
光陰は矢の如く過ぎ去り、大樹にも幾つかの年輪を刻む。
こういん は や の ごとく すぎ さり 、 たいじゅ にも いくつか の ねんりん を きざむ 。
Kouin ha Ya no Gotoku Sugi Sari 、 Taiju nimo Ikutsuka no Nenrin wo Kizamu 。
齢十五の朝を迎えることとなった、そんな私が……。
れい じゅうご の あさ を むかえ ることとなった 、 そんな わたし が ……。
Rei Juugo no Asa wo Mukae rukototonatta 、 sonna Watashi ga ……。
【七の罪科】
【 しち の ざいか 】
【 Shichi no Zaika 】
野ばらに抱かれて 眠る理由は――
の ばらに だか れて ねむる りゆう は ――
No barani Daka rete Nemuru Riyuu ha ――
燭台の揺れる焔 仄昏い闇を照らす 石壁の部屋を廻り 古い塔へ上がる
しょくだい の ゆれ る ほのお そく くらい やみ を てら す いし かべ の へや を まわり ふるい とう へ あが る
Shokudai no Yure ru Honoo Soku Kurai Yami wo Tera su Ishi Kabe no Heya wo Mawari Furui Tou he Aga ru
狭い螺旋型の階段を上ると 部屋の中 独り 老婆が麻を紡いでいた
せまい らせん かた の かいだん を のぼる と へや の なか ひとり ろうば が あさ を ぼう いでいた
Semai Rasen Kata no Kaidan wo Noboru to Heya no Naka Hitori Rouba ga Asa wo Bou ideita
こんにちは、お婆さん。ここで何してるの?
こんにちは 、 お ばあさん 。 ここで なに してるの ?
konnichiha 、 o Baasan 。 kokode Nani shiteruno ?
糸を取っておりますのじゃ
いと を とって おりますのじゃ
Ito wo Totte orimasunoja
じゃあ、それなぁに? 面白そうに、ぐるぐる跳ね回ってる物!?
じゃあ 、 それなぁに ? おもしろそ うに 、 ぐるぐる はね まわって る もの !?
jaa 、 sorenaani ? Omoshiroso uni 、 guruguru Hane Mawatte ru Mono !?
僕の理想の花嫁は 何処に居るのだろう?
ぼく の りそう の はなよめ は どこ に いる のだろう ?
Boku no Risou no Hanayome ha Doko ni Iru nodarou ?
嗚呼 西も東も 北も南も 雨にも負けず 風にも負けず
ああ にし も ひがし も きた も みなみ も あめ にも まけ ず かぜ にも まけ ず
Aa Nishi mo Higashi mo Kita mo Minami mo Ame nimo Make zu Kaze nimo Make zu
捜したけれど 見つからない……と思ってた矢先に
さがし たけれど みつ からない …… と おもって た やさき に
Sagashi takeredo Mitsu karanai …… to Omotte ta Yasaki ni
素晴らしい 噂を聞いた――
すばら しい うわさ を きい た ――
Subara shii Uwasa wo Kii ta ――
~野ばらの生垣に 抱かれた白亜の城
の ばらの いけがき に だか れた はくあ の しろ
No barano Ikegaki ni Daka reta Hakua no Shiro
空を望む薔薇の塔 眠る美しい姫君~
そら を のぞむ ばら の とう ねむる うつくし い ひめぎみ
Sora wo Nozomu Bara no Tou Nemuru Utsukushi i Himegimi
嗚呼 唯 野ばら姫の伝説を 聞いただけで 運命 感じた
ああ ただ の ばら ひめ の でんせつ を きい ただけで うんめい かんじ た
Aa Tada No bara Hime no Densetsu wo Kii tadakede Unmei Kanji ta
彼女こそが きっと僕の《捜し求めていた女性》なのだろう
かのじょ こそが きっと ぼく の 《 さがし もとめ ていた じょせい 》 なのだろう
Kanojo kosoga kitto Boku no 《 Sagashi Motome teita Josei 》 nanodarou
ならば どんな困難も乗り越えてみせよう!
ならば どんな こんなん も のりこえ てみせよう !
naraba donna Konnan mo Norikoe temiseyou !
迷いの森の 霧が晴れてゆく
まよい の もり の きり が はれ てゆく
Mayoi no Mori no Kiri ga Hare teyuku
僕を誘ってくれるのか? 愛しい姫のもとへ
ぼく を さそって くれるのか ? いとしい ひめ のもとへ
Boku wo Sasotte kurerunoka ? Itoshii Hime nomotohe
棘の生垣が 口を開けてゆく
なつめ の いけがき が くち を ひらけ てゆく
Natsume no Ikegaki ga Kuchi wo Hirake teyuku
僕を導いてくれるのか? 愛しい彼女のもとへと――
ぼく を みちびい てくれるのか ? いとしい かのじょ のもとへと ――
Boku wo Michibii tekurerunoka ? Itoshii Kanojo nomotoheto ――
燭台の揺れる焔、微睡んだ闇を照らす。
しょくだい の ゆれ る ほのお 、 び すい んだ やみ を てら す 。
Shokudai no Yure ru Honoo 、 Bi Sui nda Yami wo Tera su 。
石壁の部屋を飛ばし、古い塔へ上がる。
いし かべ の へや を とば し 、 ふるい とう へ あが る 。
Ishi Kabe no Heya wo Toba shi 、 Furui Tou he Aga ru 。
狭い螺旋型の階段を上ると――
せまい らせん かた の かいだん を のぼる と ――
Semai Rasen Kata no Kaidan wo Noboru to ――
部屋の中、独り、乙女が横臥っていた……。
へや の なか 、 ひとり 、 おとめ が おうが っていた ……。
Heya no Naka 、 Hitori 、 Otome ga Ouga tteita ……。
予定調和な王子の接吻で姫が目覚めると、
よていちょうわ な おうじ の せっぷん で ひめ が めざめ ると 、
Yoteichouwa na Ouji no Seppun de Hime ga Mezame ruto 、
役割を終えた野ばらは、立ち所に立ち枯れて朽ち果て、
やくわり を おえ た の ばらは 、 たち ところ に たち かれ て くち はて 、
Yakuwari wo Oe ta No baraha 、 Tachi Tokoro ni Tachi Kare te Kuchi Hate 、
長過ぎる午睡を貪っていた城の愉快な面々も、
ながすぎ る ごすい を どん っていた しろ の ゆかい な めんめん も 、
Nagasugi ru Gosui wo Don tteita Shiro no Yukai na Menmen mo 、
何事も無かったかのように、彼等の愉快な日常を再開した。
なにごと も なか ったかのように 、 かれら の ゆかい な にちじょう を さいかい した 。
Nanigoto mo Naka ttakanoyouni 、 Karera no Yukai na Nichijou wo Saikai shita 。
【七の罪科】
【 しち の ざいか 】
【 Shichi no Zaika 】
気高き王女を呪うなんて 傲慢なのはお前の方よ!
けたか き おうじょ を のろう なんて ごうまん なのはお まえ の ほう よ !
Ketaka ki Oujo wo Norou nante Gouman nanohao Mae no Hou yo !
――そして彼女は、
―― そして かのじょ は 、
―― soshite Kanojo ha 、
生まれた姫を森に捨てることとなる……。
うまれ た ひめ を もり に すて ることとなる ……。
Umare ta Hime wo Mori ni Sute rukototonaru ……。